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「汚れている?なぜですか」
自分の顔は見えないが、きっともう泣きそうな顔をしているだろう。
「わっちは…」
ことばが出ない。
しばしの沈黙。
火鉢がぱちっ…と音をたてた。
「きっと、幸せじゃあない」
やっと出た言葉がこれか。自分でもいやになる。
「私は」
彼が続ける。
「あなたがうらやましい」
「………?」
予定外の言葉に、びっくりする。
少しためらってから、彼は続ける。
「一階で…大勢相手に何か…言ってましたよね」
「ああ。あれはとっさに…」
「私は、度胸がないんです。たぶん、生まれ付き」
くすり、と笑う。
「大勢の前では、たぶん一言もしゃべれません」
「今日も、」
と続けて、彼は少し口籠もった様子になった。
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