2556人が本棚に入れています
本棚に追加
…花街の夜。
格子戸に並んでるおんなは…わずか三人。
「今日のわっちは、運がありやせん」
「ねえさん、いつものこと」
隣で鈴音がくすりと笑う。この子は、笑うとかわいいくせに、めったに男にこの顔を見せない。
「この商売も、二十すぎれば厳しいのさ」
タバコの炭を叩いて、また新しいのを入れ直してもらう。
「ちょっと牡丹さん、しっかりやってくださいよ」
困った顔をして、店の男が顔を出す。
「今の時間から商売っ気出したところで、客が来るとは思えないんでね」
「あとは運さねぇ、ねえさん」
鈴音もあとに続く。
「ホレサ、その運にさえも見離された」
いっとう奥に座っていて口を開かなかった辰巳がぼそり。
「………ああ、ほんとうだ」
ふーっと吐いた煙の向こう、わずかに白く、細い線が無数に見える。
「……雨。」
最初のコメントを投稿しよう!