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「…では、また」
私の手を取り、彼は見つめる。
「へぇ…清さんも達者で」
くすり、と彼が笑う。
「まるで今生の別れだ」
「かならず、また逢いに来ますよ、それまで…」
こくり、と頷く。
彼の姿を、一生懸命焼き付ける。彼の声を、彼の眼差しを、彼の言葉を。
彼の言葉を信じたい…
「青葉」
女将が声をかけてくる。
「あんたもとうとう…地獄にはまっちまったね」
ぽん、と肩を叩く。
「決して出られないのさ…恋の沼は底無しだよぅ」
ふっ、っと視線を落とす。
店の前の砂利に、無数の黒い点。
そのとき、初めて、自分が泣いていることに気付いた。
これが底無し沼でもかまわない…
あなたがくれた、あなたの全てを…
私は、忘れないから…
きっと、私のこと忘れないで……
しゃらん…と、髪飾りが揺れる。
空は、恐ろしく澄んでいた。
そこに私は、また彼を思い出す………
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