牡丹【ぼたん】

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この時間からさらに雨とあっては、いよいよ仕事がなさそうだ。              ざあぁ…ざあぁ…              音が次第に大きくなっていく。              「わっちは、雨、嫌いじゃない」 無愛想に辰巳がつぶやく。              「うん、わっちも…」 昔は、雨の音を聴きながら田舎の姉さんとよくお手玉をしたっけ…              泥の匂い。              雨が降ると、決まってするこの匂い… 自分の白粉の匂いの方が強く、自分に嫌悪する。              はあ、っとため息をつく。              ぴしゃぴしゃぴしゃ、っと水を踏みしだく音がする。 切れ長の目をした若い男が、こっちを睨んでいる。 手ぬぐいをかけているため、顔はすべて見えない。              「よう、お兄さん、一晩いかがです?」 店の男が声をかける。              ぱしゃぱしゃ…っと音を立てて格子戸に近寄り、私をさらに睨む。              「………こいつ」              男はぶっきらぼうに私を指差した。
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