2556人が本棚に入れています
本棚に追加
この時間からさらに雨とあっては、いよいよ仕事がなさそうだ。
ざあぁ…ざあぁ…
音が次第に大きくなっていく。
「わっちは、雨、嫌いじゃない」
無愛想に辰巳がつぶやく。
「うん、わっちも…」
昔は、雨の音を聴きながら田舎の姉さんとよくお手玉をしたっけ…
泥の匂い。
雨が降ると、決まってするこの匂い…
自分の白粉の匂いの方が強く、自分に嫌悪する。
はあ、っとため息をつく。
ぴしゃぴしゃぴしゃ、っと水を踏みしだく音がする。
切れ長の目をした若い男が、こっちを睨んでいる。
手ぬぐいをかけているため、顔はすべて見えない。
「よう、お兄さん、一晩いかがです?」
店の男が声をかける。
ぱしゃぱしゃ…っと音を立てて格子戸に近寄り、私をさらに睨む。
「………こいつ」
男はぶっきらぼうに私を指差した。
最初のコメントを投稿しよう!