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客は、みな一生懸命に見える。
自分が快楽へ逝くためだ、当然のことなのだろう。
ただ不思議なのは、私たち妓が快感に感じていなくても、男は快感をむさぼることができるということ。
その快感は…
「支配」という二文字につきる。
体の快楽ではなく、一人の人間を支配する、という快楽もある。
それは、体よりもずっと奥底に眠る人間の本能なのかもしれない、と思う。
「ひまわり」
呼ばれて、はっとなる。
「なんや…ねえさんか」
「随分おつかれやね、昨日の客、そんなしつこかったん?」
「そんなことは、あらしまへんが…むしろ、たいくつなくらいやわ」
風呂場で二人、遊女の会話が続く。湯けむりがむせこみそうだ。
ちゃぷん。とぷん。
水の音。
「あ、ねえさん、天神(:てんじん、遊女では二番目に高い位、一番は太夫:たゆう)にならはってから、なんか変わったん?」
ふふ、と微笑んで、天神は言う。
「なんも変わらへん。あ、名前が初音から菖蒲(あやめ)に変わったくらいやなぁ」
ふぅん、と私は相槌を打つ。
「深雪ねえさんは…」
天神は言う。
「ちっとも変わらへん。うちもああなりたいねん」
深雪(みゆき)、とは太夫のこと。深雪太夫、私たちがいる遊廓で、最も格の高い女郎。
「深雪ねえさん、道中のとき、壬生狼(みぶろ)が襲ってきてもぴくりともせんかったって、聞いた?」
「えっ…壬生狼が?」
私は眉をひそめる。
「そんな…うちなら恐ろしゅうて大声あげてしまいそうや」
侍同士の、…男同士のいざこざなんかごめんだ。
女こどもを巻き込むなんて最低だ、と思う。
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