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「深雪ねえさん、武家出身やて、聞いたことあるんや」
へえ、と私は言って、菖蒲を見る。
彼女は、白い肌に薄い唇をしている。皮膚が薄そうだ。体の所々が、上気して桃色で、女から見ても、ひどく色っぽい。
彼女が熱っぽく語るのを、私はしばし眺めていたいな、と思った。
「…で、えらい雪深いところなんやて。そやさかい、深雪て名前にしてもろたんやて」
壬生狼…
蒼い狼たち。
大阪や京で、彼らを良く思ってる人間なんて、いるのか、と思う。
だんだら模様の羽織、鉢金を付け、夜な夜な不逞浪士を切り付けるという…
新撰組、の名前を聞けば、子供でも震え上がるだろう。
「………武士なんて…」
ぎゅっと、拳を握り締める。
「…どないしたん?向日葵」
菖蒲が眉をひそめ、顔を近づける。
「…うち、武士なんてきらいや…なんや、えらいえばり散らしとるし」
私のつぶやきに、彼女は少し笑って、それから
「そうやね…」
と寂しそうにぽつりと言った。
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