狼と向日葵(前編)【おおかみとひまわりぜんぺん】

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「深雪ねえさん、武家出身やて、聞いたことあるんや」              へえ、と私は言って、菖蒲を見る。 彼女は、白い肌に薄い唇をしている。皮膚が薄そうだ。体の所々が、上気して桃色で、女から見ても、ひどく色っぽい。 彼女が熱っぽく語るのを、私はしばし眺めていたいな、と思った。              「…で、えらい雪深いところなんやて。そやさかい、深雪て名前にしてもろたんやて」              壬生狼…              蒼い狼たち。              大阪や京で、彼らを良く思ってる人間なんて、いるのか、と思う。              だんだら模様の羽織、鉢金を付け、夜な夜な不逞浪士を切り付けるという…              新撰組、の名前を聞けば、子供でも震え上がるだろう。              「………武士なんて…」              ぎゅっと、拳を握り締める。            「…どないしたん?向日葵」              菖蒲が眉をひそめ、顔を近づける。              「…うち、武士なんてきらいや…なんや、えらいえばり散らしとるし」              私のつぶやきに、彼女は少し笑って、それから 「そうやね…」 と寂しそうにぽつりと言った。             
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