狼と向日葵(前編)【おおかみとひまわりぜんぺん】

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風呂上がり、女郎たちはとてもすがすがしい顔をしている。              自分が受けとめた汚れを、清めたかのような気持ち。              きっと、みんなも同じことを思っているのだろう。              毎日のこの習慣が、禊ぎ、のようなものだ。そして今日も、まるで生け贄のように、真っ赤な紅を差し、真っ赤な襦袢をひるがえし、喰われるべき男を待つ、このからだ…              支配される、ということ。              蹂躙、という言葉のほうが、しっくりと来る。              自分に触れてくる男たち、自分のなかに入ってくる男たちを、毎日毎日私は殺す。              ある時はすぐそこにある花瓶で、ある時は鋭いかんざしで、ある時は御大層においてある武士の魂、とやらで…              「ふふっ…」 想像して、私は笑みを漏らす。 楽しくてしょうがないのだ。 真っ赤に飛び散る鮮血、がくがくと力が抜けていく体、私に命は取らないでくれと懇願する顔…を思うと。              支配したい…              「…どうしたんだぃ」 男が尋ねる。              「あんたが…上手やさかい、うれしゅうて…」 雌猫がさかるような声で言ってみる。              男はにんまりと汚く笑うと、 「祇園のおんなもいいが、新町もまた格別だ。江戸吉原のおんなは気が強くておいらにゃ合わねぇんだ」              そういって油っぽくてかった顔を私の白い谷間に埋める。              死ね… 汚いやつは死んでしまえばいい…              男が死ぬところを想像して、私は高まっていく。              「向日葵、おめぇは…よく濡れるおんなだなァ」              「うちのせいやない、あんさんのせいや…」 潤んだ瞳で小指を噛んでみる。 男は喜び、すぐ挿れてくるのだ。              (畜生や、こいつら…)              女なら、なんでもいいのだ。              そこには、こころ、が無い。              胸があって、穴があればいい、そんなやつらばっかりだ。 男のうめきを聞き、こみあげてくる胃液を我慢した。
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