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「向日葵」
女将に、呼び止められる。
「あんた、最近評判ええよ、だんだん分かってきたん?最初来たときはどないなるかおもたけどなぁ」
来たとき…
「へぇ」
気の無い返事をしてみる。
「仕事んときとまったく違う顔やな、ま、きばりやす」
言われて、どんな顔だっけ、と思う。
部屋に戻って、鏡を覗いてみる。
やつれた、青白い顔。
これが本当の私…
男に抱かれている私は、いったい誰なんだろう。
本当の私って、いったいどっちが?
今の私が本当じゃなかったなら……
心が、海に沈んでいく…
深い、深い、海の…底へ。
それはとても心地よく、ある衝動を私に呼び込む。
深紅の衝動…
手首の、一番皮が薄いところに、刃を立ててみる。
す―っと刃を引くと、にじんでいく血液。
ぺろり、と舐める。
少し塩っぽくて、甘い。
また、笑みが漏れる。
これで、生きている実感が得られるのだ。
「ひまわりちゃん…」
「あやめちゃん」
そっと入ってきた菖蒲が、悲しそうな顔をする。
「また、してたん?」
「………これ、気持ちええよ」
くすくす、と笑う。
「ひまわりちゃん……うち…なんも、助けてあげられへんなぁ」
助ける?
私を?
「あやめちゃん、変なこというんやなぁ」
今度は彼女が不思議そうな顔をする。
「うち、夜があるから生きていけるんや、今のうちは、まやかしや」
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