狼と向日葵(前編)【おおかみとひまわりぜんぺん】

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「向日葵」              女将に、呼び止められる。              「あんた、最近評判ええよ、だんだん分かってきたん?最初来たときはどないなるかおもたけどなぁ」              来たとき…              「へぇ」 気の無い返事をしてみる。              「仕事んときとまったく違う顔やな、ま、きばりやす」              言われて、どんな顔だっけ、と思う。              部屋に戻って、鏡を覗いてみる。              やつれた、青白い顔。              これが本当の私…              男に抱かれている私は、いったい誰なんだろう。              本当の私って、いったいどっちが?              今の私が本当じゃなかったなら……              心が、海に沈んでいく…                          深い、深い、海の…底へ。              それはとても心地よく、ある衝動を私に呼び込む。              深紅の衝動…              手首の、一番皮が薄いところに、刃を立ててみる。              す―っと刃を引くと、にじんでいく血液。              ぺろり、と舐める。              少し塩っぽくて、甘い。              また、笑みが漏れる。              これで、生きている実感が得られるのだ。                                                  「ひまわりちゃん…」              「あやめちゃん」 そっと入ってきた菖蒲が、悲しそうな顔をする。              「また、してたん?」              「………これ、気持ちええよ」 くすくす、と笑う。              「ひまわりちゃん……うち…なんも、助けてあげられへんなぁ」              助ける? 私を?              「あやめちゃん、変なこというんやなぁ」              今度は彼女が不思議そうな顔をする。              「うち、夜があるから生きていけるんや、今のうちは、まやかしや」
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