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いったい、本当の私はどっちなんだろう。
きれいな着物を着て、男を誘い、男に支配されながら、そいつを切り刻んでやりたいと思ってる私?
自分の弱さにうちのめされながら、体を傷つけて心を奥へしまい込む、私?
いっそのこと、私なんて…
死んでしまえれば、と思う。
毎日犯され続けている私。
体は濡れてしまうことが、どうしても許せないのだ。
深い海の底に沈んでしまえたら…
安らかに眠れるだろう。
体、という枷から、抜け出して心だけになりたい。
逝って、楽になりたい…
頬を伝う涙は、畳のうえに大きな染みを作る。
ぱたっ…ぱたたっ…
涙の音。
崩れる、体。
深い眠りの底に堕ちていく…
がやがやと、人の声。
もう、支度の時間なのだ、と思う。
また犯されるための化粧をする私。
紅を差し、鏡の前で唇を見てみる。
お歯黒に染まった歯が、ちらり、と覗く。
「向日葵!早く支度せな、今日は大きいお客はん来てくれはる日やで」
一階に降りると、女将に叱られる。
「客て…どんな客なん?」
「近藤はんいわはる方や。有名やろ、今日は太夫の貸し切りやて。道中のとき、太夫をえろう気に入らはったんやて」
近藤…
壬生狼の親玉…
胃がむかむかとしてくるのが分かる。
「女将はん、うちもお座敷出なあかんの」
女将はにっこり笑う。
「向日葵が出んで誰が出るん?天神も出るやんか、あんたもきばりや」
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