狼と向日葵(前編)【おおかみとひまわりぜんぺん】

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いったい、本当の私はどっちなんだろう。              きれいな着物を着て、男を誘い、男に支配されながら、そいつを切り刻んでやりたいと思ってる私?              自分の弱さにうちのめされながら、体を傷つけて心を奥へしまい込む、私?                          いっそのこと、私なんて…              死んでしまえれば、と思う。              毎日犯され続けている私。 体は濡れてしまうことが、どうしても許せないのだ。                          深い海の底に沈んでしまえたら… 安らかに眠れるだろう。              体、という枷から、抜け出して心だけになりたい。              逝って、楽になりたい… 頬を伝う涙は、畳のうえに大きな染みを作る。              ぱたっ…ぱたたっ… 涙の音。 崩れる、体。 深い眠りの底に堕ちていく…                                      がやがやと、人の声。              もう、支度の時間なのだ、と思う。              また犯されるための化粧をする私。              紅を差し、鏡の前で唇を見てみる。              お歯黒に染まった歯が、ちらり、と覗く。              「向日葵!早く支度せな、今日は大きいお客はん来てくれはる日やで」 一階に降りると、女将に叱られる。              「客て…どんな客なん?」              「近藤はんいわはる方や。有名やろ、今日は太夫の貸し切りやて。道中のとき、太夫をえろう気に入らはったんやて」              近藤…              壬生狼の親玉…              胃がむかむかとしてくるのが分かる。              「女将はん、うちもお座敷出なあかんの」              女将はにっこり笑う。              「向日葵が出んで誰が出るん?天神も出るやんか、あんたもきばりや」             
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