牡丹【ぼたん】

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「おい旦那、燗をつけてくれ。こっちは冷えきってるんでね」 男はそう伝えると、どかどかと音を立てて廊下を歩いた。              「牡丹姐さん、強運の持ち主だわ」 鈴音がにっこりと笑う。              「明日はわからないねぇ。今日の運は最高のようだ」 そう言い残して、裾を引きずって、長い階段を昇る。              部屋に着くと、男は 「着替え」 とぼそっと言い放った。 かむろに言い付け、着替えをもってこさせる。              屏風の向こうに、衣擦れの音。 しゅるしゅるっ…とする音。 なんだか、ひどく卑猥な印象をうける。              「兄さん…訳ありだねぇ」 ぽつりとつぶやくと、 「なんでわかる」 と応えながら、上半身を出して着替えを続ける。 「若いだろ、まだ二十前に見える。それに職人の風体、吉原にこれる身分には見えやせんが」              「なるほど」 口の端だけでにやりと笑う。 「いい目をしてやがるじゃねえか。この時間まであの表情で客を待ってられるたぁ、どんな女かと思ったが…」 きゅっ、と、帯を占める音。 「…楽しくなりそうだ」 ぎらり、と眼の奥が光った。
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