2556人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい旦那、燗をつけてくれ。こっちは冷えきってるんでね」
男はそう伝えると、どかどかと音を立てて廊下を歩いた。
「牡丹姐さん、強運の持ち主だわ」
鈴音がにっこりと笑う。
「明日はわからないねぇ。今日の運は最高のようだ」
そう言い残して、裾を引きずって、長い階段を昇る。
部屋に着くと、男は
「着替え」
とぼそっと言い放った。
かむろに言い付け、着替えをもってこさせる。
屏風の向こうに、衣擦れの音。
しゅるしゅるっ…とする音。
なんだか、ひどく卑猥な印象をうける。
「兄さん…訳ありだねぇ」
ぽつりとつぶやくと、
「なんでわかる」
と応えながら、上半身を出して着替えを続ける。
「若いだろ、まだ二十前に見える。それに職人の風体、吉原にこれる身分には見えやせんが」
「なるほど」
口の端だけでにやりと笑う。
「いい目をしてやがるじゃねえか。この時間まであの表情で客を待ってられるたぁ、どんな女かと思ったが…」
きゅっ、と、帯を占める音。
「…楽しくなりそうだ」
ぎらり、と眼の奥が光った。
最初のコメントを投稿しよう!