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ざわざわと人の声…
今日もたくさんの男たちが、おんなを買いにくる。
客をとるようになってずいぶんと経つが、それでもまだ慣れないものだ。
体は、案外すぐ慣れてしまう。ただ、気持ち…心は、なかなか慣れてくれない…
いっそ、心が無くなってしまったら、どんなにか楽かと思う。
煙管を叩く音。
目当ての男に視線を送る者や、格子戸越しに声をかけるもの。様々だ。
むせかえる白粉の匂い。
おんなの匂い…
ふと、自分が他人にどう見えてるのだろうかと、気になった。
いやいやここにいると、そんな風には見えないだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら格子戸の外に視線をやると、いかにも遊び人といったような、自信に満ちあふれた表情の男がいた。町人風の格好だ。
店のなかに入ってくる。
と、後ろから若い男が入ってくる。耳まで真っ赤にして、前の男にぴったりとついてきている。
歳は十五、六だろうか。
前髪を落としているので元服はすんでいるようだ。
視線の先に、女将が手を擦り合わせ、話をはじめているのが見える。
「まあ…かわいらし」
「耳まで真っ赤にして…わっちが立候補しようか」
他の女がざわざわと騒ぎ立てる。
「もう…よしなんし、かわいそうだよゥ」
うっかり、口を滑らせていた。
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