牡丹【ぼたん】

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…花街の夜。              格子戸に並んでるおんなは…わずか三人。              「今日のわっちは、運がありやせん」 「ねえさん、いつものこと」              隣で鈴音がくすりと笑う。この子は、笑うとかわいいくせに、めったに男にこの顔を見せない。              「この商売も、二十すぎれば厳しいのさ」 タバコの炭を叩いて、また新しいのを入れ直してもらう。              「ちょっと牡丹さん、しっかりやってくださいよ」              困った顔をして、店の男が顔を出す。              「今の時間から商売っ気出したところで、客が来るとは思えないんでね」              「あとは運さねぇ、ねえさん」 鈴音もあとに続く。              「ホレサ、その運にさえも見離された」 いっとう奥に座っていて口を開かなかった辰巳がぼそり。              「………ああ、ほんとうだ」 ふーっと吐いた煙の向こう、わずかに白く、細い線が無数に見える。              「……雨。」
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