名も知らぬ君へ。

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 でもそれは僕なりの愛だ。  『生』が一瞬でしかないのなら、『死』はきっと永遠だから。  美しい君を美しいままで遺しておきたかったから…──。  愛しているよ。  名も知らぬ君。  これを運命の出逢いと言わずして、何と言うだろう。  愛しているよ。  名も知らぬ君。  僕も今、君の元へ行くよ。  そうしたら、今度こそ君の名前を教えてくれるかい?  愛しい……名も知らぬ君。  そして僕は君の胸から抜いたナイフを自分の喉元に当て、ひっそりと呟いた。 「……愛してるよ…──」  言葉の余韻が消えない内にナイフの柄を握る手を引いて、自分の喉に赤い一筋の線を描く。  想像していたよりずっと温かな血が喉から胸へと川を作り、さっき唇を重ねたばかりの口からもその血がほとばしる。  やがて最後の桜の花びらが、魂の抜け殻となった僕の唇に舞い落ち、僕と君の血で真っ赤に染まった。
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