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「──」
心臓が止まるかと思った。
しかし、その心臓の鼓動は速くなるばかり。
「……」
凜央はケータイを閉じた。
このまま朝まで気づかないフリをすればいい。
そう。
朝まで私はこのメールに気が付かなかった。
それでいいだろう?
無論、凜央は行くつもりなどなかった。
仕事がある上に、電車がもうないかもしれない。
だからもうあの街には今日行く事はできない。
「……」
凜央は仕事に集中しようと頬を叩く。
「……バカ」
行きたがっている。
会いたがっている。
自分の中にある何かが、あの人に会いに行けと告げている。
「ああ、もう!!」
凜央は、終電に間に合うように急いで家を飛び出した。
「……」
少なくとも、あのメールを無視することは、凜央には不可能だった。
会って──帰るだけ。
それなら誰にも文句ないはずだ。
電車に揺られ、たどり着いた先でタクシーを拾おうとするが、生憎タクシーが捕まらない。
凜央は歩く事にした。
「……」
辺り一帯を静けさが包み、何かが出てくるのではないかと不安になる。
「あ……」
昔と同じ場所に「fairy&devil」はあった。
懐かしい。
ここにはよく世話になった。
「凜央ッ!!」
「?」
突然、声がした。
「──」
凜央はその相手を見て、動けなくなる。
「久しぶりだな」
「──睦樹……先輩」
「おかえり」
睦樹は凜央の手を握る。
「薄着すぎ。まだまだ寒いんだから、もっと厚着しないと」
「私を呼んだのは先輩でしょう?」
「もしかして、急いで来た?」
「……」
凜央は頷いた。
「ごめん、凜央。でも、来てくれてありがとう」
睦樹は、凜央の冷たくなった手を暖めるべく手を包んだ。
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