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「……凜央、変わってないね」
「え?」
「俺に会いに来てくれた凜央は、昔とちっとも変わってない」
「……先輩は」
凜央は、睦樹から視線を逸らす。
「先輩は、変わりましたね」
「そうかな?」
「身長も……もう追いつけないです」
「そうだね。最初に会ったとき、凜央が縮んだのかと思ったよ。でもそうじゃなかった」
俺が成長したんだよね、と睦樹は微笑む。
やっぱりこの笑顔だけは、昔と変わらない。
「凜央、今年から高校の教師になるんだって?夢、ちゃんと叶えられたじゃん」
凜央は聞きたかった。
睦樹はどうなのかと。
しかし、言葉が出てこない。
久しぶりの再会で、緊張しているのか──?
「今日、あやねさんがやってる居酒屋に行きました」
「知ってる。レナちゃんからメールが来た」
「どうして──返事返してあげなかったんですか?」
やっと凜央は睦樹を見る。
「……」
睦樹は凜央を見て、苦笑した。
「言い訳っぽく聞こえるだろうけど、俺は仕事でメールに気づかなかった」
「仕事──ですか?」
「そう。仕事が終わってやっとさっきレナちゃんにメール返したところ」
「その、仕事内容を聞いても?」
「うん」
睦樹はそう答えたあとに、微笑んだ。
私服のポケットから名刺ボックスを取り出し、凜央に渡す。
「弁護士やってる」
「──」
弁護士は、睦樹の夢だったはずだ。
叶えられた──のか。
「凜央がいなくなってから俺もいろいろ考えたんだよ?というか、凜央に会ってから考えてた。進路の事。俺は、信じた道を行く事にしたから」
誇らしげに自分の仕事を語る睦樹は、格好良かった。
「俺も夢、叶えたよ」
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