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「まさか、また学校でいじめられたんじゃないでしょうね?」
強い口調で叱りつけ、緋那希は雪耶の正面に顔を持ってきた。
「違うっすよ……緋那希兄さんが心配するような事は何も無いっす」
笑っているつもりだった。
少なくとも表面上は。
雪耶の嘘が下手なのか、兄達が嘘を見破るのが上手いのか、雪耶の嘘はいつもすぐにバレてしまっていた。
大抵の場合、ほとんどの兄は見逃してくれるのだが、緋那希だけはいつもしつこく追及してくるのだ。
「……本当にいじめられているわけじゃ無いんですね?」
ちらりと腕時計を確認して緋那希は念を押した。
「……よろしい、では時間も惜しいですしこの話はまた今度にしましょう」
小さく溜め息を吐くと、緋那希は席を立った。
「すいません、樟葉(くずは)、凛寧、せっかく作って頂いたのに」
申し訳無さそうに小さく頭を下げる緋那希に樟葉が残念そうな顔を見せる。
「仕事じゃ仕方ないって、緋那希」
そういう樟葉に呼応するかのように凛寧も首を縦に振る。
「俺ももうすぐ出なきゃ、翡絮、後片付け頼めるか?」
「いいよ、終わったら散歩行くから、雪耶留守番よろしくね」
偶然にも、今日は翡絮以外の兄達は全員仕事が入っていた。
それほど珍しい事でも無いが、どうやらみんな忙しいらしい。
しかも翡絮は吸血鬼なのでいつも日が暮れる頃に起きて出掛けていき、夜明け前に帰ってくる。
彼が人間でないという事は周知の事実だった。
周知とは言え、知っているのは家族や友人だけだし、彼の中に流れる吸血鬼の血は大分薄く、人間より体は丈夫だが寿命は対して変わらない。
人間と同じ生活ができるという程では無いが、血はたまに欲しくなる程度だし、日に当たっても倒れる事はあっても、別に灰になったりはしない。
そういう異常事態を当たり前に受け入れている兄達を、そしてそれを受け入れなければならなかった自分自身が、少しだけ気持悪かった。
「さて……いってきますね」
「いつ帰れるか分かりませんから、早めに寝るんですよ」
緋那希とあさとが部屋を出て、他の兄達がそれに続く。
そのまま放置された皿や残り物を翡絮と雪耶の二人で片付ける。
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