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「……ごちそうさまです」
小さくて遠慮がちな声に、雪耶はそちらに目をやった。
見ると、紫雨(しう)の前にはほとんど手の付けていない料理が並んでいた。
「……紫雨、今日は兄さん達は仕事で食べられなかったんすよ?紫雨は残さずにちゃんと食べなきゃ駄目っす」
建前として説教はするが、雪耶とてバレないように半分近く残して他の兄の皿に移したのだ。
「雪耶、人の事説教する前に自分の事省みるように」
どうやら翡絮にはバレていたらしく移した料理を雪耶の皿に戻している。
「ひーにいちゃんこそ、好き嫌い多すぎ」
夜(よる)の言葉に翡絮の皿を見る。
確かに彼の嫌いな野菜や茸、レバーばかりが多く残っていた。
「違うし、嫌いなんじゃなくて食べられないだけだし」
翡絮はかなりの偏食で、好き嫌いが多い。
「同じだから」
翡絮の言い訳に三人が声を揃えたので、四人は顔を見合わせて笑った。
皿洗いと余った料理の処理を済ませて部屋に戻ると、九時を過ぎていた。
その頃になってようやく、宿題の存在と消しゴムがなくなりかけていた事に気付いた。
この近くにはコンビニは無いし、少し歩くが書店まで行けば安く買える。
もっとも、十時までやってる書店はその一軒だけなので、少し急がないとならないが。
財布とケータイをポケットに突っ込み部屋を出る。
今日はほとんど人がいないから廊下も他の部屋も真っ暗で静まり返っている。
紫雨と夜の部屋は下の階なので行き掛けに寄ってみる。
紫雨の部屋からは微かに音楽が流れていた。
しかし何度ノックしても出る気配が無い。
寝ているのかもしれないと思いノブを回す。
音楽が流れっぱなしでは電気代が勿体無い。
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