2人が本棚に入れています
本棚に追加
「紫雨?入るっすよ」
ノブに手を掛けて回そうとするが鍵が掛っているようだった。
「……紫雨?」
何故鍵なんて掛けてるのだろうか。
そういえば、今日の紫雨の様子はおかしかった。
紫雨が料理を残すなど、有り得ないのだ。
背も低く痩せていて、食が細そうに見えるが、実は紫雨はかなり大食いなのである。
大人でも難しいような大食いメニューを簡単に平らげるほどに。
その紫雨が今日に限って夕飯を残すなんて。
何かあったのだろうか。
嫌な感じだ。
もやもやした、除け者にされているような感じ。
隣は夜の部屋だ。
紫雨がいるかもしれないと思って足をそちらに向けるが、しかし隣で呼び掛けていたのだから気付く筈だ。
念の為ノックをしてからドアを開ける。
夜の部屋には、誰もいなかった。
もちろん、リビングにはいなかったし、風呂場にいるんなら二階へ登る階段で気付く筈だ。
夜の部屋のベランダからなら、紫雨の部屋に行ける筈だ。
部屋を横切り、窓を開けると冷たい風が入ってきた。
体の震えに、一体何故こんな事をしているのか、疑問を感じた。
単純に嫌な予感がしたからだ。
虫の知らせのようなその嫌な予感がどんなものなのかはわからないが、大切な弟達を放っておくわけにはいかない。
それが偽善だという事も、弟は大切にしなければならないという定義が、胡蓉のせいで崩れている事にも気付いていたが。
ベランダから隣の、紫雨の部屋を覗く。
相変わらず部屋からは明かりと音楽が漏れていたが、他に物音はしなかった。
いや、それは別に不自然な事ではないのだが、なんとなく変だと思った。
人の気配が無い。
なんでこんな、カモフラージュのような真似をするんだろう。
部屋の電気も音楽も消し忘れて出掛けるなんて有り得ない。
それも小学生がこんな時間に。
窓の鍵は開いていたので、そこから中に入る。
「紫雨?」
呼び掛けながら辺りを見回す。
見える範囲には誰もいなかった。
すると見えない場所、クローゼットの中や机やベッドの下に隠れているのかもしれない。
もちろん、いるハズがないだろうとは思っていたが。
第一、何故こんな時間に自分の部屋で隠れている必要があるのか。
つまり、いないのだろう。
この無駄な行為は、道端のゴミ箱や植え込みで人探しをするようなものだ。
最初のコメントを投稿しよう!