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包みは思いの外重く、転がる所か持ち上がりもしなかった。
しかしそれでも、布が落ち、中身が表れるには十分だった。
それは――――死体だった。
それもかなり腐っていた。
あまりの衝撃に、その場で何度も嘔吐した。
何度も、何度も。
それでも、全然楽になんかならなくて、寧ろその臭いが余計に嘔吐感を煽った。
胃の中が空っぽになって、出す物が何も無くなった頃には、頭がぼんやりして、臭いすらよくわからなくなっていた。
鼻が慣れてしまったのか、蛆虫を払う気力すら喪失していた。
どうして……。
それが何に対して思った事なのか、すぐにはわからなかった。
「……燃やさなきゃ」
無意識だった。
その言葉は雪耶の意思とはまるで無関係に彼の口から発せられた。
だが、そのとおりだと思った。
声に発した途端、その言葉が正しい事のように思えてくる。
寧ろそれ以外の方法があるとは思えなかった。
こんな物がこのままここにあったら、いずれ見付かる。
それに、証拠が無くなってしまえば、紫雨の部屋に死体があったという事実が消え失せてしまえば、紫雨の罪は消える。
紫雨は何も、悪い事なんてしていないのだ。
紫雨は優しいいい子で、嘘を吐いたり、人を騙したり出来る子じゃない。
況してや、死体を隠しておくなど。
だからこれは、何かの間違いなのだ。
証拠が無くなれば、きっと何も無かった事になる。
死体が無くなれば、最初から死体なんて無かった事になるのだ。
確か庭の物置に灯油があった筈だ。
急がなければ。
そう思い、焦っていたせいか、油断した。
部屋を出てすぐ、廊下の明かりがついた。
誰かが帰って来ていたのだ。
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