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「……雪耶くん?」
声がした方にゆっくりと顔を向けた。
そこには、まるで不振な物でも見るかのように、あさとが立っていた。
「あ……さと、兄さん」
吐きすぎたせいか、声が枯れて喉が痛い。
不審に思ったのか、それとも異変に気付いたのか、あさとが小走りに近付いてきた。
さりげないそぶりで部屋のドアを閉めたが、あの異臭は部屋の外まで漏れるのではないかと不安になった。
「具合……悪いんですか?」
どうやら異臭に気付いたワケではなく、単に雪耶を心配してくれていたようだった。
「はい……でも大した事無いので」
不安と緊張で心臓がはち切れそうだった。
あさとは見た目には自然を装っているが、もしかしたらこの臭いに気付いていて、その上で何も言わないのかもしれない。
或いは、既に死体の事を知っていて、雪耶をはめようとしているのかもしれない。
いや、もしかしたらあさとも紫雨と共犯なのではないか?
そしてそれはあさとだけで無く、紫雨や他の兄弟達も。
今まで優しい振りをして、陥れようとしていたのかもしれない。
今まで、敢えて考えないようにしていたが、紫雨の部屋に死体があったという事実だけでその前を考えなかったが、その前、つまり、死体になる前は生きていたという事。
それだけは、考えたくなかった。
生きていた人が死体になったという事はつまり、なんらかの方法で死んだという事。
死体を隠したのには、それ相応の理由があるという事。
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