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「新島、ちょっといい?」
後方から名前を呼ぶ声がして、二人同時に振り向く。
二人共振り向いたのは、名字が一緒だからだ。
「あ、わりぃけど兄貴借りるわ」
そう言って声の主は一緒に帰る筈だった兄を促して去っていった。
一人取り残された彼、新島雪耶(にいじまゆきや)はぼんやりとその場に立ち尽くしていたが、頭を振るとすぐに帰路を急いだ。
いつもの事だ。
そう、俺は兄貴達とは違い、誰にも必要とされていない。
それは、今まで何度も自分に言い聞かせた事だった。
それが覆る事は無い。
帰り道を一人で歩いていても誰も声を掛けてくる者はなく、ただたまに兄弟絡みの事で話を聞かれたり彼等宛ての手紙なんかを渡されるぐらいだ。
今日もいつもと同じで、同じ学校の制服を着た生徒達が数々のグループを組んで歩いていくのを視界に入れながら下校していた。
治安が悪いせいか、一人で帰る者というのはこの学校では珍しく、ほとんどの者が二人以上で帰っている。
だから一人で歩いている雪耶の姿というのは多少浮いていた。
もちろん、態々視線を投げ掛けてくる者などいないが。
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