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家に帰ると、雪耶はいつも通り誰とも顔を合わせないように部屋へ急いだ。
もっとも誰かしら庭やら台所やらリビングやらにいるので、返事をするぐらいはしていたが。
「…まって、雪耶おかえり」
後方から早歩きで兄の一人、凛寧(りんねい)がシャツの裾を掴んできた。
「なんすか、凛寧兄さん」
雪耶は小さく溜め息を吐くと後方、やや下を見遣った。
凛寧は雪耶より二つ年上で、今年十五歳になるというのに、小学校低学年ぐらいにしか見えないほど小さく、雪耶が毎日のように預かっている手紙もほとんどが凛寧宛てのラブレターだった。
「…んと、クッキー、焼いたから」
が、子供っぽいのは見た目と口調だけで、彼は万能だった。
成績優秀、スポーツ万能、人望も厚い。
何をやらせても完璧にこなし、それを鼻に掛ける事は無く、謙遜がまったく嫌味にならない。
自慢の兄、と呼ぶにはあまりにも出来すぎた兄だった。
「ありがとっす、後でいただきます」
雪耶は鞄からいくつかの手紙を取り出し無造作に凛寧のエプロンのポケットに突っ込んで走り出した。
階段を上りながら後ろを振り向くと、廊下に散らばったたくさんの手紙を凛寧が一人で拾い集めていた。
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