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雪耶の学費や生活費などは全て兄達が出してくれていた。
親がいないのだから、その代わりになる兄達が与えてくれた物は微々たる物だった。
しかしそれも子供の頃だけだった。
どうやって稼いでいるのかは知らないが、兄達の収入は年々莫大な物になっていった。
明らかに年齢に見合った額では無いが、それが出来るのが彼等だという事を雪耶は知っていた。
ベッドも机も制服も、全てが腹立たしかった。
もちろん、それがまったくのお門違いだという事はずっとわかっていたが。
自分じゃ何も出来ずに、生活の全てを兄達に賄われているという事実。
劣等感と嫌悪感がないまぜになったような気持ち悪い感覚。
雪耶はそれを度々感じていた。
そしてそれを感じた後は、いつも兄達に対して胸が痛むのを感じるのだ。
親のいない事に対して、疑問や不平を漏らした事は無いし、辛いと感じた事も無かった。
身寄りの無い自分を引き取ってくれた戸籍上の父親である鈴菜(すずな)と育ててくれた妃河理(ひかり)には特に感謝している。
それでも心が満たされないのはただの自己嫌悪だろう。
子供の頃から出来の良かった兄達は自分や弟達の為に、そして鈴菜に恩を返す為に寝る間も惜しんで働き、それでいて学業を怠る事は決して無かった。
長兄、妃河理に至っては年齢が一桁の時から既に働きだしていたし、他の兄達だって自分より幼い頃から働いていたのだ。
なのに自分はまったくもって平凡そのもの。
何の仕事をしているか知らないが、兄達の手によって何不自由無い生活を送っているのだ。
もちろん兄達だって毎日毎日働き詰めで遊ぶ間も無いのではつまらないだろう。
しかし彼らは決してつまらない毎日を送っているわけではなく、ちゃんと趣味にも身を投じている。
彼らの趣味のバリエーションといったら実に多彩で、中学生にもなって趣味の一つも見付からない雪耶とはえらい違いだ。
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