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「…う…あぁっ」
ミシッ、と肋が悲鳴をあげた。その音に胡蓉は慌てて足を退けた。
「んー、骨はマズイよなぁ、やっぱ」
胡蓉は雪耶のシャツを捲り、腹で煙草の火を揉み消した。
マズイというのだって、どうせ雪耶の心配では無く、バレた時の自分の心配しかしていないのだろう。
それから胡蓉は、考え込むように眉をひそめると先程雪耶を殴った物、フルートケースで肩をリズミカルに叩いた。
しばらく思案していたが不意に胡蓉が口元を歪めた。
「……なぁ雪耶ぁ、お前足と腕、どっちが大事?」
まるで光を一切知らないかのような、冷たく鋭い目で胡蓉は雪耶を見つめた。
少しずつ、少しずつ近付いて、キスするんじゃないかというぐらいまで近付いて、胡蓉はようやく止まり雪耶の返事を待った。
「どっちも……」
雪耶はまさしく目と鼻の先にある胡蓉の目の奥に写る自分を見て考えた。
極々平均的な身長。
取り立てて特徴の無い顔立ち。
成績は中の上ぐらい。
これと言って目立つようなグループにいるワケでなく、人込みに紛れてわからなくなるようなタイプ。
果たして自分の存在価値はなんなのだろうか。
自分にはきっと、この人達の弟である資格なんて無かったのだ。
「必要…無いっす」
怯えを悟られないように胡蓉の目を伺った。
「………へぇ」
小さな声でそう呟いた雪耶に、胡蓉はそう返した。
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