2人が本棚に入れています
本棚に追加
「そりゃぁそうだよなぁ?速く走れるワケでもねぇ足も、芸術を産み出せるワケでもねぇ手も、どっちもお前には必要ねぇよ」
そう言って胡蓉は雪耶の左腕を取り、締め上げた。
「優しい優しいお兄さんはさぁ、いきなり利腕とかいかないから」
何が面白いのか、胡蓉はケラケラと笑うと肩を踏みつけ、思いきり雪耶の腕を引っ張った。
ゴキン、という鈍い音と共に雪耶の腕はあらぬ方向を向いてしまった。
それでも雪耶は床に顔を押し付け、悲鳴が外に漏れるのを防いだ。
「お、頑張ったじゃん、偉い偉い」
足の裏で雪耶の頭を撫でるように踏みつけると、胡蓉はドアの方へ向かった。
「それ、ちゃんと言い訳考えとけよ」
パタンとドアがしまる音がし、雪耶は部屋に一人取り残された。
身体中の痛みが少しずつ鮮明になってきたが、その痛みに身を委ねてしまった方がよっぽど気が楽だった。
いつからだっただろうか。
昔はこんなじゃなかった。
素直に兄達を凄いと思えたし、その兄達の弟である事は雪耶にとって誇りだった。
でもいつの間にか、自分が特別な存在なんかじゃない事に気付いた。
胡蓉からの虐待を受けるようになった。
兄達を見るのが辛くなった。
少しずつ、人との付き合いを避けるようになった。
自殺願望が生まれ、自ら手首を切るようになった。
もちろん、周りの人は皆心配した。
それを雪耶は拒んだ。
余計惨めになるだけだから。
それでも優しい兄達は雪耶を心配した。
ずっとその繰り返しだった。
最初のコメントを投稿しよう!