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【一章】
昔、ひととは異なるひとの形をしたモノがいた。その名を『ヴァンパイア』。
もう、千年もの昔。血を必要としひとを襲った化け物。…ひとはそう思って疑わない。
しかしヴァンパイアはひとを襲う事はなかった。ひとが生まれヴァンパイアが生まれてからの永い時空(とき)の中でヴァンパイアは決してひとを襲わなかった。ただの一度も、襲う事はなかったのだ。
ヴァンパイアは、ただ花だけを持った。
そう、ヴァンパイアにとって、花は血の代わりなのだ。
血、無くしては生きられないヴァンパイアは紅き花を持って血の代わりとした。
ヴァンパイアは特に紅い薔薇を好んだ
ヴァンパイアが手を触れる。すると薔薇(はな)は養分をヴァンパイアに吸われ、朽ちる。つまり、萎れて、枯れる。
血を吸うヴァンパイア。ひとの血を奪うヴァンパイアを、ひとは畏れ、迫害する。
ひとの迫害を受けずとも、ヴァンパイアは花しか持たなかった。
ひとは愚かだった。ヴァンパイアは決してひとを襲わなかったのに、ひとはヴァンパイアを畏れた。ひとを襲う化け物として。
ヴァンパイアは堪えた。ひと迫害を受けても分かり合える日が必ずくると、信じ続けた。
ひとに、その想いは届かなかった。
ヴァンパイアは、仕方なしに逃げた。ひとが畏れないように、ひとが足を踏みいれないような深い所へ。
ひとはヴァンパイアの存在を忘れなかった。そして、ヴァンパイアの存在を認めなかった。
それはやがて伝説となってひとのおとぎ話になった。『畏ろしい異形のモノ』として。
ひとは未だヴァンパイアの存在を畏れ、認めない。それでも、ヴァンパイアは待ち続けた。ひととヴァンパイアが共存できる、その日を…。
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