【一章】

2/20
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
「もう、どうしてこんなことになっちゃったの?」  不意に、嘆きのかかった悲しそうな少女の声がする。  ある深い山にある、澄んだ湖のそこに少女はいた。 「…何を言っても応えてくれるひとはいない、かぁ…」  少女は悲しそうに身を屈めてうつむいた。  少女は『アキナ』という名前を持っていた。十四歳前後に見える少女であるが、実のところ少女は既に生まれてより七百を数えていた。  ひとの形をしたひととは異なるモノ、『ヴァンパイア』。アキナはその一人であり、ひとの迫害から逃げるよう指示を出したヴァンパイア達の指導者の一人でもあった。  アキナは、現存するヴァンパイアの中でも特に永く生きている。  ヴァンパイアの寿命はおよそ一万年と言われている。七百歳のアキナは、普通ならばまだ幼いといえる年齢だ。  ひとの迫害により、ヴァンパイアの数は激減していた。ひとに殺されるモノもいたし、現状に堪える事が出来なくなり自ら命を絶つモノもいた。『長老』と呼ばれた千歳を数えたヴァンパイア達は、ひとに「見せ占め」という名目で殺された。  ヴァンパイアはひとに逆らわなかったのだ。  ヴァンパイアはその気になれば人類を総て支配することもできた。それをしなかった理由は長老曰く、「力による無理な支配は、無益な争いの火種となる」だからだそうだ。  アキナは長老のその見解に疑問を持たなかった。実際、ひと同士でそのような出来事があったのだ。 「師父。ひとはわたし達を忘れず、そして認めませんよ。きっと、永遠に」
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!