〈さよなら〉と〈ようこそ〉

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結局いい文章は思い浮かばなかったので、最初の紙の最後に“ありがとう、そしてさようなら”と書き足した。 遺書を封筒に納め机の上に置いた。 バレない内にさっさと死のう。 「お袋ぉ、親父ぃ、ちょっと出掛けてくるわ」 「あら、こんな時間に? 気をつけなさいよ」 「車が多いからな。 死ぬなよ? なんてな!」 親父は豪快に笑った。 まったく、冷汗が吹き出たよ。 なんて勘の鋭い親父だ。 苦笑いを浮かべながら、ドアを開けて外に出る。 俺ん家はマンションに住んでいる。 八階建ての、普通のマンション。 俺は階段を一段づつゆっくりと登る。 着いた場所は屋上。 一度はやってみたかった、屋上ダイブで俺の人生は幕を閉じる。 転落防止のためにある、金網のフェンスから街を眺める。
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