視線

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「……どうしたの?」 私は、ハッと意識を浮上させた。 いけない、いけない。 今は、彼との初デートに集中しなければ。 私は、彼ににっこりと笑いかけた。 「ううん。なんでもないよ」 私が言うと、彼は安心したように笑った。 私は思わず、彼の笑顔に赤面した。 彼は、誰がどう見ても、格好いい。 サラサラとした癖のない髪も、整った眉も、大きな瞳も。 少し、女の子っぽい所もあるが、やっぱり格好いい。 実際、先ほどからカフェの中にいる女のほとんどが、彼にチラチラと視線を送る。 私は、それが少し誇らしい。 ……けれど、その視線にイラつきも覚える。 中には、あらかさまに視線を送る女もいる。 粘っこく、私に対しての嫉妬の視線だ。 さっきも、その粘っこい視線に気を取られて、ついつい考えこんでしまっていた。 「ねぇ、どこか違う所に行かない?」 私は、甘えた声を出して彼に聞いた。 彼はすぐに頷くと、立ち上がる。 私は、彼の腕に自分の腕を絡ませる。 がっしりとしている訳ではないけれど、決して弱く、なよなよしていない彼の腕。 「……いこっ」 私は、わざと大股で店を出た。 粘っこい嫉妬の視線の中に、今までとは明らかに違う、恐ろしく冷たい視線を感じた。
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