2―非現実的日常―

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ある町の上空。 名残惜しそうにその町を見つめる老人がいた。 老人の足は、透けている。 「―おじいさん。」 老人に掛けられた言葉。その言葉に反応し、老人は声がした方を見る。 「あぁ。君か。」 そこにいたのは四十九日前、老人に四十九日の事を告げに来た少女だった。 長い漆黒の髪は高く結い上げられているが、それでも腰まであり、 目は、血を連想させるほどの赤。 最初はその目に驚いたが、あえて触れずにおいた。 「心残りは、ありますか・・・?」 「ないわけなかろうに。だが、死んだ事は受け入れよう。」 「そうですか。良かった。では今お経によって出来た結界を、道に直しますね。」 少女が老人に手をかざすと、老人の周りに光がとりまく。 殺那、とりまいていた光が、遥か上空に向かって伸び、その端が見えなくなる。 老人が徐々に、光の玉となって消えていく。 「87年間、お疲れ様でした。」 「あぁ。ゆっくり休むとするよ。」 その言葉を最後に、老人の体は全て光の玉となり、遥か上空まで出来ている光の柱の通りに、昇って行った。 少女はそれを、見えなくなるまで、見送った。
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