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「友達と外で夕食を摂ってたの」 それとなく帰りが遅かった理由を聞くと、静音はそう答えて続けた。 「最近好きな人が出来たって言われて。ちょっと相談がてら」 なるほど。 「その子、うまく行くといいね」 僕がそう言うと、静音は微笑んで返した。そして「そう言えば」と思い出したように言った。 「清水くんは彼女さんは居ないの?」 僕は小さく笑って首を横に振った。 「ここ最近はまったく」 「浮いた話の一つでもないの? 私で良ければ相談に乗るわ」 静音は小さく微笑んで言った。僕は微笑んで返すと、 「頼もしいね」 と言って続けた。 「そう言う宮本さん――」 「静音でいいわ」 静音はそう遮った。 「名字で呼ばれるのはあまり好きじゃないの…」 静音はそう言って視線を落とし、何もない空間で何かを探しているかの様に口を閉ざした。 そんな静音を見て僕も黙ってしまった。どうにも次の話を切り出すタイミングがつかめずに黙っていると、静音の方から「ごめんなさい」と口を開いた。 「変な意味はないのよ。ただ、名字って、名前と違って、その家族やその一族に属しているって意味合いが強いじゃない? それが少し嫌なだけなの」 静音は「だって」と続けた。 「私は私だもの。静音って言う、ひとりの人間だから」 雲一つ無い夜空からは、よりいっそう強い月明かりが降り注いでいた。それは目の前にある景色を明るく浮き上がらせ、けど僕と静音の間の空間に暗く陰を落とした。本来の意味ではもちろん月明かりのせいではないが、確かに僕たちの居る空間は、陰に覆われている。そんな気がした。 素直に言うと気になった。静音の過去、その教訓から来る言動。僕は、もっと静音の事を知りたい。好きになる理由なんて、今はそれで充分だ。
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