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ファンタジスタは走る。
星空の下、走りつづける。
宵闇をかき分け、宵風を切り裂き、行き先もないまま、ただ、走る。
ファンタジスタは知っている。
距離なんて無いことを。
離れることなど不可能だということを。
時が来ればあれは瞬く間に彼の後ろに現れ、彼の未来を奪う事を。
しかしまだその時ではないことをファンタジスタは知っていたし、その時までまだ相当の月日が流れる必要があることも知っていた。
ファンタジスタは立ち止まり、ため息をついた。
ため息は水晶のようにきらきら輝いて、夜空に溶けていった。
その瞬間、ファンタジスタは背後に気配を感じて素早く振り返った。
ファンタジスタの心臓が大きく一つ脈打って、その表情に驚愕の色を浮かばせた。
振り返った先には、恐れていたそれがただ佇んでいた。
それは暗い色をしたコートの下からいびつな笑みをしてみせると、ぶわりと大きくコートをはためかせた。
それの背後から闇色が突如膨らみ、急激に星空を覆い隠していった。
ファンタジスタの視界が黒く染まってゆく。
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