月曜の昼 (鈴木賢次)

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   やっと見つけた空いているベンチには  老婆が一人座っていた  とにかく少しでも早く座りたかった賢次は  「隣いいですか?」と言うのが早いか  座るのが早いかというほどの勢いで  腰を降ろした  地震かとも思えるほどのベンチの揺れにも  顔色一つ変えずに老婆は言った  「お兄さん大きいなー お相撲さんかね?」  「いえいえ違います すみません」  賢次は汗を拭きながらそう答えた  これが過ちの始まりだった  老婆は賢次が受け答えたことをきっかけに 堰を切ったように話しだした  「そんなに大きな体してるのに もったいないなお兄さん  わしは相撲が大好きでな  ほれ そこの道を真っ直ぐ行ったところに 相撲部屋があるじゃろ  あそこの親方はな 小さい頃から腕白な坊主でな  よう叱ったものじゃ  昔はあちこちで・・・」  老婆が延々と昔話を始めたのである (しまったな)  と思いながらも賢次は相槌打って 必死に聞いている振りをした  そして早くベンチから離れる機会をうかがっていた  やっと話疲れたのか  老婆が一息ついたところで  間髪いれずに賢次は立ち上がり  「それでは仕事があるので失礼します お邪魔しました」  と立ち去ろうとした  すると突然  老婆は急に変なことを言い出した  「お兄さん あんたの顔に死相が出とるよ  気をつけなさいな」  あまりのことに賢次はたじろいだが  軽く頭を下げてその場を後にした  後から思えば当たっていたのか  この後賢次自身 自分が入院する事になろうとは  夢にも思わなかったのだ  
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