書籍版・冒頭

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 …よし、何の気配もない。  満は呪具わしまってある引き戸の奥の天井板を外して、菓子箱くらいの桐の箱を引っ張りだした。それを三人で囲んで座る。 「右近、左近、桜、橘!」  満が喚ぶと部屋の影から四人の小人が現れた。剃髪で黒装束の二人は満の<息子>、おかっぱ頭で巫女装束の二人は翔の<娘>…月代当主付きの式神たち。満の指示通り、部屋の四隅に散った。 「さて、結界も張ったし、そろそろやるか?」  満の言葉に翔はうなずいて、弦の前に箱から出した札を並べていく。札にはすべて妖怪や精霊が描かれている。それを裏返して混ぜた。 「さぁ、お姫さま、どの札にいたしましょう?」  弦は瞳を輝かせて真剣に札を選ぶ。一度しか遊べないから、絶対面白い札を選ばなきゃならない… 「コレ!」  真ん中にあった札を取り上げて正面の翔に見せた。 「今日は<河童>ですか」  その札を隣に座る満にも見せる。 「封印二百五十年の罰かぁ…まぁまぁのレベルだな。ホント、弦はこういうコトに関してはハズさないよな」  感心されて、首を左右に揺らして喜んでいる。その姿に兄弟も笑い合う。 「よし、じゃあ、潜るか」  満の合図で三人は目を閉じて、札に手を重ねた。空間がゆらぐように渦を巻く。地響きのような重低音が足元を満たしていく… 「離れるなよ」  満の声を最後に、三人の意識は札の中へと吸い込まれて消えた。
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