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三
足元もかすむほどの激しい吹雪の中、スノーボードにもたれかかりうずくまる、虫の息の男がひとり。
完全に方向感覚を失い、ゲレンデから外れた上に足をくじいてしまっていた。この天候では救助もすぐには望めないだろう…
俺はここで死ぬのか。
男は虚ろに空を仰いだ。どうせ死ぬのなら、孤独に逝ってしまうより最期を誰かに見取られたかった。悔しさと寂しさで涙がにじむ。
誰か、俺を見つけてくれ…
たとえようのない恐怖と睡魔に男は必死であらがった。
「あの…どうされました?」
吹雪の轟音の中、不思議とかき消えることなく耳に届く女の声に、遠のいてしまいそうな意識が呼び戻された。
ふり返るとすぐそばに、真っ白なウェアを着た美しい女が立っている。
…これは幻覚なのか?
女は凍える男の体を抱き起こし、暖をとれる場所を探し、懸命に介抱した。
徐々に生気を取り戻した男は、改めて見た女の美しさに心を奪われ、ついに衝動のままにその思いを遂げてしまったのだった。
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