牡丹雪

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「ありゃ、反則だよな?」 複雑な笑顔で満は翔にふり返った。 翔は黙って熱い煎茶を満に差し出した。 兄弟が捜し当てた雪女の想い人は、妻帯者だったのだ。初めて恋して、初めて結ばれた愛しい男はすでに他人の夫だった…男を追って郷をおりた彼女には、あまりに残酷な真実。 「まぁ、雪女の恋はほとんど叶わないものらしいけど、さすがにあれはちょっとね」 煎茶をすすり、翔が答えた。 その後、雪女は気丈にも明るく笑い飛ばし、こう言った。 「ゲレンデの上では男っぷり、二割増ししますしね。錯覚しちゃったかしら」 山をおりて街で見たら、全然たいした男じゃありませんね…そう強がる彼女の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちるのを兄弟は見なかったふりをして笑った。 「初恋があんなじゃ、男性不信になっちまうだろな」 「でもさ、ボクらの仕事も減るんじゃない?」 兄弟は顔を見合わせ、かすかに笑い合い、もう二度と彼女に切ない想いはしてほしくはないと心から願った。
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