06:朦朧 

12/12
前へ
/159ページ
次へ
 ああ、頭が痛い。目がかすむ。  裏側ばかりが自己主張して、表側がよく見えない。  ふらり、とよろめきながら、【私】は無意識に足を進める。  【私】を取り囲むものたちに、誘導されて。 「妹を……探しているんです」  足の裏に、枯れ草を踏んだ感触。大丈夫だ。まだ、感覚はちゃんとある。ざく、ざく、と踏みしめる音。だけど、不思議と寒さが薄れてきた。よかった――ここは、居心地がいいみたいだ。 『妹?』 『いもうと?』 『とうこの妹?』 『人間の子』 『さあて、見たかしら』 『どこかに、居たかねえ』 『人間の子ども』  ざわめく声の中から、確かにきこえた。 『この山に迷い込んだ子なら、知っているよ』 「えっ」  希望の声に、振り返る。  薄青い影のような人型をした"なにか"が、【私】の驚きを肯定する。 『案内してあげよう、とうこ』  一も二もなく頷いた。行かなければ。  ああ、でも頭が――痛い。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

91人が本棚に入れています
本棚に追加