06:朦朧 

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 ページがめくれ、次の場面へ移動する。  強い風にあおられて、一面の桜が散った。  通学路を少し脇にそれた川沿いに、見事な桜並木がある。  時期になると、毎日のように寄り道した。  晴れの日も、雨の日も、ひとりで歩く桜並木の道。  桜が好きだった。  ずっと、見上げて歩いていた。  母と手をつないで歩いた日を、ときどき思い出しながら。  ひとりで見上げても、桜の花はきれいだ。  いつかの日と同じ、優しい色をしている。 「とっおこちゃあーん!」  後ろから大きな声が追いかけてきて、振り返る。  短くした茶色っぽい癖っ毛に、大きな目、まだ肌寒いのに、ショートパンツにスニーカーで元気に駆けてくる妹が笑った。頭の上で大きく手を振って、ランドセルを反対の手で振りまわしている。  近所でも、クラスでも、妹に勝てる男の子はひとりも居ないという。
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