06:朦朧 

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 【私】は、妹にうまく言葉をかけることができない。  できないまま、妹は言いたいことを言ってくるんと回って駆けだしていく。一度振り返って、またぶんぶんと手を振って。並ぶ友達がこちらにぺこりと頭を下げた。  【私】は、もう微笑みを保てなくなった顔で、妹を見送っている。鏡がないから、自分がどんな顔をしているのか、分からない。  ただ、立ちつくしている。  桜の花びらが、音もなく舞い落ちる中。  ひとりで。  これは、過去の記憶なのだろうか?  それとも夢?  妄想?  こんな場面が昔にあったような気はするけれど、正確な再現なのか、分からない。風が吹いて、長く伸ばしている髪が顔にかかった。視界が黒く染まる。
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