06:朦朧 

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 青空の下、歩いていたのに。  綺麗な桜並木の中にいたのに。  どうして、今、【私】の目の前は真っ暗なんだろう。 【――なあ、あんた。おい】  ぼんやりしていたところに、また、声がかけられた。  【私】は、緩慢に顔をあげる。  いつの間にか、目の前に、誰かがいた。  すっと背を伸ばして、立っている。 「……どちら様ですか?」  目の前の人影を、見定める。【私】とそっくりおなじくらいの背格好だけど、風に揺れる黒髪は短い。  ふと、気付く。  ――こちらは、裏側。白い幕の向こうの世界だ――
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