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【彼】が居ないのは、【私】が置いてきたからだ。引き止める手を、振り切った。
ぼんやりと大学でのことを思い出すと、急に頭が重くなった。
でも、仕方がなかった。
ああするしか、なかったのだ。
【私】が【私】を守るためには――
振り切るように首を振って、辺りを見回す。
いつの間にか、だいぶ山中に分け入ってしまったようだ。
裏側に対して意識を研ぎ澄ませる。
前に、崎原さんとここに来たときは、裏側のものたちがまったく見えなくなってしまって、薄気味悪く感じた。でも、今は違った。
『とうこ、どうした?』
『何かさがしているの?』
『手伝おうか』
『一緒に行こう』
『ほら』
『おいで』
それらのものたちは、【私】をびっしりと取り囲むように、存在した。頭の中にちょくせつ話しかけてくる声の洪水で、目眩がする。
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