最期の日常

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よく晴れた日の朝。陽が昇って間もないこの時間、庭でゆさゆさと枝を揺らす小さな桜とは対照的に家の中は慌ただしい。 「ちょっと!時間ないじゃん!朝飯いらねぇから!!」 「あんたが二度寝なんかしてるからでしょうが!遅刻してもいいから朝ご飯食べてから行きなさい!!」 「何でだよ!朝練あるから遅刻なんかできねぇっての!」 神谷信吾[カミヤ シンゴ]とその母・洋子[ヨウコ]との声が家中に響く。 既に支度を済ませた父・孝治[コウジ]と妹の紗那[サナ]は、それぞれ会社と中学校へ行くのに揃って家を出るところだった。 「行ってくるぞ」 「あ、はいはい行ってらっしゃい」 孝治が言うと洋子は信吾との言い争いを中断し夫に鞄を渡した。 代わりに紗那が一言信吾に、 「全く困った兄貴だぜ。せいぜい遅刻するなよ!」 「うるっせぇんだよ!」 「へぇへぇすいませんねぇ。じゃ、お先行ってきまーす!」 そう言うと紗那は父の後について玄関を出た。
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