a whispering history

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誰も近寄らない旧校舎。 立入禁止と明記された扉の向こう側。 微かに聞こえる鉄琴の音。   「これより放送を開始します」   宣言と共に、徐々に音量が上がっていく音楽。 ハウスミュージックでもトランスでもなく、十数年ほど聴き古されたようなピアノジャズ。   「さあ、今日も始まりました放課後の放送。 好きな子に声を掛けられなくて見送ったキミ、教科書の隅に名前を書いては消していたキミ……聞いてるかな?」   返事は無い。 当たり前だ。   放送である前に、本来人が居る筈の無い旧校舎。 ただ「ソレ」は其処で喋り続けた。   「この校舎を見渡すと、至る所にラクガキがあるんだよね。 まあ、私も少し見るワケで……相合傘を。 当時を識らない者としては、それが二人の幸せを書いたモノなのか。はたまた独りの願いを書いたモノなのか、判らない。 ただ、そこには感情が在ったと思うんだ。 純粋な、想いが」   放送室の「ソレ」の言葉は、夕焼けに通り抜けていく。 果たして、耳を傾ける者は居るのだろうか。 「ソレ」には、想像すらつかない。 ただ、古びた器材に向かって喋り掛けるだけ。   「今日はリクエストが無かったので、私のオススメをお送り致します。曲名は――――」
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