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「あ、いんちょ今日暇?」
「いんちょは旧校舎の件で忙しいの!
ねぇ、いんちょ」
「いんちょって無口だよね」
通りすがりに、見知った生徒が数人声を掛けていく。
この学校の生徒は全員、「委員長」と発音できないらしい。これは世界七不思議に登録すべく本格的に活動を開始せねばなるまい。
「あら、いんちょさん。今日も人気者ね」
少しハスキーな、それでも抑揚から洗練された声に引き留められ、足は運動を停止した。
振り返ると、スポーツ万能、成績優秀、眉目秀麗、文武両道……いささか意味は被るが、それほどまでに見目麗しいだけでなく中身も素晴らしいと、万人が認める御人が微笑んでいた。
清潔感漂う香を振り撒き、靡く長髪は風すらを撫でる。
……ただ問題点が一つ。
「日々の行いの賜物ですよ、権三お姉さま」
本名:早乙女権三
そう、オカ……ニューハーフなのである。
完璧に着こなしているのは、セーラー服。
ここまで個性が尊重される時代になったことには、正直驚きを禁じ得ない。
「うふふ、オカマでいいわよ。私は女を演じるのが好きなの」
僕の顎を撫でる手が放つ甘い匂いに、目を細める。
何事にも臆さない凛凛しさから、同年代からも「お姉さま」と呼ばれ、尊敬と憧憬を欲しいままにしていた。
「そうそう、日々の行いの賜物というのは間違いね。
アナタの放送、型にはまり過ぎで詰まらないもの」
業務内容である連絡事項に娯楽性を求められても困るというものだが、面と向かって言われると少々のショックを受ける。
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