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いや、その可能性は充分あり得る。
あれだけ素晴らしいヒトなのだから、毎日のように女子には告られているだろうし、彼女なんて選び放題に違いない。
私だって、別にそこまで酷い顔をしているつもりはないが、面と向かって「カワイい」と言われた事もまたない。
やはり私は、所詮部活のおかげで普通よりもちょっと関わりがあるだけの、何でもないただの後輩なのだ。
と、ネガティブモードに入ろうとした矢先。
沢口先輩の視線が真っ直ぐこちらへ………正確には、私に向けられた。
「九重、ちょっと来てくれないか?大事な話があるんだ」
…静かな教室に、芯の通った先輩の声が響き渡る。
彼の言葉の意味を理解するのに、私はたっぷり十秒以上の時間を必要とした。
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言われるままに先輩の後に着いてきた私が辿り着いたのは、先ほど澪と行こうかと話していた屋上だった。
給水搭と二つのベンチだけが置かれた、殺風景な場所。
天気は清々しい秋晴れであるが、遮蔽物のないおかげで少しばかり肌寒い。
そんな屋上のコンクリートの地面に、私と沢口先輩は二人きりで立っていた。
「……話って、なんですか?」
立ち止まった沢口先輩の背中へ、おずおずと問い掛ける。
平静を装ってみたものの、心臓は破裂しそうなくらいバクバクと脈打っている。
ああもう、静まれ私の鼓動!
だが、こうなってしまうのは仕方ないと思う。
何せ、憧れの先輩に呼び出され、誰もいない屋上で二人きりという、大抵の女子なら誰でも一度は夢見るシチュエーション。
そして、実は想いを寄せていた本人から告白され、「二人は実は両想いだったのです!」みたいな感じになるのが定番だ。
今まではくだらない漫画やドラマ内だけの話だと馬鹿にしていたが、いざ自分がそのような状況に置かれているのかもしれないと想像すると、平常心を保てと言う方が無理な注文である。
そんな期待と不安を交差させる私へ、ゆっくりと振り向く沢口先輩。
きっと、テレビや雑誌に出ても全然違和感がない。
そんじょそこらの歌手や芸能人なんかよりも、ずっと綺麗で整った顔をしている。
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