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「えと…私、なんかで……いいんですか?何かの勘違いじゃ…」
しかし、嬉しくてたまらないハズなのにも拘わらず、私が口走ったのはそんな質問だった。
わ、私の馬鹿…。
せっかく沢口先輩が告白してくれたのに…ヤな娘だと思われたらどうしよう…。
だが、それは杞憂に終わる。
「ああ、オマエじゃなきゃ……九重じゃないと駄目なんだ。だから、俺と付き合って欲しい……オマエが欲しいんだ九重!!」
私がいい、私が欲しいと、力強く繰り返す先輩。
冗談や軽率な気持ちからではなく、心の底からの願望と懸命さ。
それを証拠付ける真剣な眼差し。
私は、そんな彼の瞳に魅入られたように、自然と首を縦に振っていた。
「…その……はい、オーケー…です……」
嬉しさと気恥ずかしさが混じり合い、顔が蒸気するのを感じる。
心臓が、あばら骨を叩き折らんばかりに暴れている。
まさかのまさか。
長年(と言っても一年ちょいだが)想い続けていた、学校中で最も有名で人気のある完璧超人の先輩に告白されるなんて、誰が想像しただろう。
「そ、そうか!」
先輩の表情が、喜悦に染まる。
安堵感と幸福感が、ありありと浮かんでいた。
…そこまで、私のコトが好きだったのかな……?
他人事のように考えてしまう。
妄想することすらなかった事実に、どうしても現実感が得られない。
例えるなら、夢の中にいると理解した上で幸せな夢を見ているような、そんな感じ。
「よろしくな、九重!………いや、紅葉!」
だが、突然の事態に困惑する私に、再び先輩の顔が迫ってくる。
まるで、恋人同士になった事を確かめるかのように。
そ、そうだ。
OKしちゃったって事は、今日から私は沢口先輩の彼女で、先輩は私の彼氏……うわ。
こんな恋愛ドラマみたいな展開って、本当にあるんだ…。
てことは……ま、またキス、されちゃう…?
その想像通り、今まさに先輩の唇が、私の唇に押し当てられようとしていた。
僅かな不安の入り混じった、淡い期待を抱きながら、私はされるがままに目を閉じようとして―――
「!?」
屋上の入り口に、誰かがコッソリと立っていることに気づいた。
鉄製の大きめの扉。
その下数センチの隙間から、赤い上履きが覗いている。
誰かが、私たちの会話を盗み聞きしているのだ。
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