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……ウソ…やだ……。
背筋に「ゾクリ」と悪寒が走る。
額に嫌な汗が滲み、薄気味悪さに鳥肌が立つ。
先ほどとは違う意味で鼓動が激しくなった。
そんな私の動揺を感じ取ったのか、先輩は不思議そうに目を開ける。
「どうしたんだ、紅葉?」
名前で呼ばれた事に、本来ならば幸福感を味わえたのだろうが、生憎と状況が状況である。
「だ、誰かがドアのとこに…私たちの話を聞いてるみたいなんです!!」
入口を指差して叫ぶ。
ドアの隙間から見える上履きが、緊張するようにピクリと動いた。
だが―――
「脅かすなよ…そんなくだらない事か」
沢口先輩はそれに対し、全く動じた様子もなかった。
うっすらと、安堵の笑みすら浮かべている。
「な、くだらないって……だって、知らない人に私たちの関係がバレちゃったかもしれないんですよ!?」
予想外の反応に、私は呆気に取られる。
覗き見なんて悪趣味もいいところだし、その対象が自分であるのならば尚更である。
なのに、やはり先輩は落ち着いた様子で『それがどうした』とでも言いたげに、瞬きをしていた。
その態度に、私は言葉に詰まってしまう。
それでも、なんとか言葉を絞り出す。
「…だ、だからって…その、つまり…全校生徒のみんなに、私と沢口先輩が付き合ってる事がバレるって…」
だが、控えめに反論した私に、沢口先輩はさも当然のように告げた。
「バラしちゃえばいいじゃん。俺と紅葉が愛し合ってるコト、学校中に見せびらかしてやろうぜ」
そう言い切るのと同時、沢口先輩は一気に身を乗り出してきた。
抵抗する間もなく、再び唇を重ねられる。
「んぅっ…む、ぐぅ……」
私が呻くのも構わず、背中に手を回され、グッと抱き寄せられる。
強く、強く……もう放さないと言わんばかりに。
……先輩って、こんな強引な人だったっけ?
無理やり口に侵入しようとする先輩の舌のぬめりを感じながら、私は疑問に思った。
私のイメージの先輩は、もっと控えめで優しく、何よりも相手の気持ちをよく考える…そんな感じだった。
だからこそ、好きだったのに。
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