🍁喪失感🍁

2/12
前へ
/131ページ
次へ
▼ 「ねむ……」 登校早々、私の第一声はそんな呟きだった。 周囲の生徒たちの喧噪に流されながら、瞼を擦り擦り、ノロノロした足取りで教室へ向かう。 眠い、兎にも角にも眠い。 何故こんなにも眠たいのか……もちろん寝不足だからである。 原因はやはり、沢口先輩とのコト。 一晩中、彼の告白を了承したのが正しいかについて考えていたおかげで、一睡もできなかった。 結局、答えは出なかったのだけれど。 昨日。 昼休みが終わり教室へ戻った私は、澪を始めとするクラスメート達の歓迎の嵐に巻き込まれた。 何があったのかと騒ぎ立てる彼女らに、とりあえず適当に言い訳をつけ、なんとか真実を隠蔽(いんぺい)することに成功。 いずれ噂として広まってしまうのだろうが、自分の口からそれを告げるのは、当然ながら躊躇われた。 ただ、誰にも言わないようにと念を押した上で、澪にだけは話しておいた。 彼女は噂好きで、一見口が軽い印象を受けるが、基本的に約束はキチンと守る人間である。 これまでの付き合いで、私はそれを充分に理解している。 予想通り、散々からかわれはしたものの、自分からは決して喋らない事を誓ってくれた。 うむ、やはり持つべきモノは友である。 そんな昨日の回想をしながら、妙に歩きづらい階段を、転ばないよう慎重に上り続ける。 この学校の階段は、万が一脚の悪い方や怪我をした生徒などが楽になるよう、一つ一つの段差が異常に低く造ってある。 福祉面では素晴らしいアイデアだとは思うが、私のような一般の生徒には逆に使い辛く、不便な事この上ない。 今日のように寝ぼけた頭で上り下りをしていると、ウッカリ階段を踏み外してしまう可能性が大。 実際、そのおかげで怪我をする生徒が後を絶たない。 そんな訳で、足元に集中しながら、一段一段をゆっくり踏みしめ、亀のような鈍さで進んでいた。 だが、ようやく教室のある三階の踊り場まで辿り着いた時、その狭いスペースにギッシリと集まる集団が目に入った。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

140人が本棚に入れています
本棚に追加