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『どうして部活に出てこなかった……いや、それよりも、なんで俺を置いて先に帰った?」
…そういえば。
今日は、先輩と一緒に帰る約束をしていたんだっけ。
あまりに色々な事がありすぎて、すっかり忘れてしまっていた。
「ごめんなさい…。ちょっと、トラブルが―――――」
だが、私が言い終わるよりも早く、
『そんなのは知ったこっちゃねぇよ』
―――と。
信じられない発言が、耳に届いた。
「え…?」
まて。
今、なんて言った?
聞き間違い、だよね?
そんな私の疑問に答えるように、沢口先輩の声が再び聞こえてくる。
『オマエの都合なんて知らない。どんな用事だろうと、俺の約束を破っておいて言い訳するな』
絶句する。
少々強引な部分こそあれ、先輩は私のコトをちゃんと考えてくれているものとばかり思っていた。
だからこそ、悩んでいたのに。
なのに………私の都合なんて、どうでもいいだって?
『ったく…。いいか紅葉?オマエは俺の彼女なんだ、彼氏との約束をすっぽかして帰るようなマネ、二度とするんじゃないぞ?俺が告白した時、紅葉は俺のモノになると言ったんだ。これからは、絶対に勝手な行動すんなよ、いいな!?』
先輩はまくし立てるようにそう叫ぶと、反論する暇もなく、通話を切った。
私は口をポカンと開けたまま、ツー、ツー、という無機質な音を聞く。
脳内で、先輩の言葉が反響する。
…なに?
沢口先輩は、私のコトなんて全くどうでもよくって、挙げ句の果てに所有物宣言?
一年以上彼に抱いていた“理想の先輩”というイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
あの優しい笑顔も熱心な指導も、単に私を手に入れるためだけの偽物だったのか。
或いは、そんな沢口先輩のイメージは、私が勝手に解釈して作り出した、ただの幻想?
彼は私がどんなに辛い想いをしていようと、全く気にならない人間のだろうか。
「……もう、やだ」
今日一日で、何故こんなにもおかしな事になってしまったのだろう。
別に悪い行いをした覚えもない、いつも通りだったハズ。
なのに、どうして…?
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