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しかし、一時の激情というのは、冷めてみれば単に虚しいだけで、後々立場を悪くしてしまうものだった。
生徒指導室に呼ばれた私は、そこで何故あんな暴行を加えたのか、自分が何をしたのか分かっているのかと、散々しつこい説教を受けた。
ふん。
なによ、私がどんな辛い目に逢っているのか知りもしないくせに、こんな時だけ教育者気取りですか?
役立たずのクソオヤジ。
勿論、イジメの事は話していない。
暴露してしまえば、それは佐藤らに対して、私が負けを認めるのと同義だ。
幸い(私にとっては微妙に残念だが)、佐藤は軽度の打ち身と打撲だけで済み、私に停学等の処分が言い渡されることはなかった。
保健室で、頭に包帯を巻いた佐藤に謝れと言われた時は、流石に堪えるのはキツかったけれど、憎しみと怯えに満ちた佐藤の瞳から優越感を得られたおかげで、再び殴りかかりたい衝動をなんとか抑えこんだ。
それにリーダー格である佐藤がこれなら、もう表立った嫌がらせはなくなるだろう。
そう思い、嬉々として教室へ戻った私だったが、すぐにその判断が甘かった事を知る。
私の机には、黒板に書かれたモノと同じような内容の落書きがされていた。
それもわざわざご丁寧に、黒の油性ペンで。
つまり、佐藤の行為など関係なしに、本当に私が嫌われているという事を意味づけていて…。
そして当然のようにその光景を無視する澪の姿もまた、私の心を痛めつけるのだった。
黒い文字で太く書かれた、無数の『消えろ』という文字。
繰り返されるコトバが、胸を深く抉り、瞳の奥から涙を押し出そうとする。
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